ある官僚の挑戦


Governance May 2001
連載 現代を射抜くコラム
「政治の潮目を読む」

Mさん、夏の参院選まであと3ヶ月。選挙の準備は進んでいますか。

 霞ヶ関官僚が政界に飛び出すのは珍しくないですが、あなたのように若手で抜擢され、首相の施政方針演説を下書きしていた人が野党から立候補すると聞けば、やはり驚きます。

 今さらながら、霞ヶ関と自民党の蜜月時代は過去のものとなりました。

 とりわけ、あなたの「霞ヶ関」に対する絶望の深さを聞くにつけ、日本の政治が陥った閉塞状況を思わずにはいられません。

 あなたの話のなかで一番印象に残ったのは、橋本行革の一場面です。

 橋本内閣の行政改革会議が発表した中間報告は、郵政省の解体や建設省からの河川局の分離など、大胆な内容を盛り込み、反響を呼びました。

 そのとき、分割のターゲットにされた役所のある官僚がショックで寝込むほどに落胆したのを間近に見て、それがあなたの政界転出の一つのきっかけになったそうですね。

 その官僚は、分割案を阻止できなかったことで痛々しいまでに責任を感じたのでしょうが、「組織と個人」のこんな限りない一体感ぶりが、あなたに「霞ヶ関の限界」を見せつけ、絶望させたのです。案の定、分割案はその後、完全に否定されました。

 首相の施政方針演説の文言一つをとっても、各省庁の利害調整が延々と続きます。その挙句、首相の方針が換骨奪胎される。小骨まで抜き取ろうとする官僚たちがただ一つ忠誠を誓うのが、自分の省であり局なのです。

 一体、そのどこに国全体の利益を考えた行政や政治があるのでしょうか。今や、「縦割り」を放置しては、国の戦略目標は定まらず、財政の無駄も大きくなるばかりです。

「霞ヶ関」が「縦割り」を克服できないなら、自ら、政治に飛び込み、野党のリーダーのもとで国の戦略を考えたい。利害にからめとられた自民党にはもう興味はない。

 そのようなあなたの考え方にうなづく人も少なくないでしょう。

 政治も「霞ヶ関」も、「縦割り」の弊害に気づいてはいます。

 今年1月に中央省庁を22から12におおくくり再編したのも、そのためです。

 でも肝心の官僚たちの思考方法が相変わらず「縦割り」では、何も変わりません。

 そこで、そこに新たなメスをいれようというのが、6月に決まる公務員制度改革です。そのなかで、「国家戦略スタッフ(仮称)」の発足が正式に決まります。

 内閣に各章の人材や民間の専門家を集め、称や局の枠にとらわれないで、国の戦略的な政策を考えさせようというアイデアです。

 すでに1月から首相補佐官が増員され、経済財政諮問会議が設置されました。これに国家戦略スタッフ群が加われば、首相は内閣に三つの知恵袋をもつことになります。それを生かせるかどうかは、首相次第です。

 実は、国家戦略スタッフ群の創設を進言したのも、Mさんと同じ危機感を持つ霞ヶ関の若手官僚たちです。それを行革の責任者に返り咲いた橋本元首相が受け入れたのです。

 もし、Mさんが当選して野党党首の政策チームに入れば、いずれ政権交代が実現した場合、首相補佐官になったり、経済財政会議、国家戦略スタッフ群をリードする役を担うことが可能になります。

 政治主導とは、本来、首相がこのような政策チームを自在に使って政策をリードし、内閣を通じて行政を動かしていくことです。

 政治と官僚の関係がいま大きく変わろうとしています。Mさんがその変化に一役買っていけるかどうか、見守っていくつもりです。


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