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毎日新聞 2003年6月22日 |
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「聖域」に切り込む勇気を! |
「聖域」に切り込む勇気を! 不良債権問題は日々深刻の度を増し、産業の空洞化にも歯止めがかからない。景気低迷と失業の増大に出口は見えず、わが国は巨額の財政赤字のもと、薄氷上を巨象が歩むがごとき危機的状況にある。求むべき経済・雇用に関する処方箋は、「公共投資、真水で10兆円」といった台詞で一括されてはならない。 一方、わが国が国際社会の中で魅力と活力、そしてモラルを取り戻すためになすべき課題は山積みにされている。国民が誇りを持てるような先端技術の開発や小さくとも世界に二つとない製品を作る中小製造業の復権。日本独自の文化・芸術の伝承・醸成と発信。真っ当な努力が報われ、やり直しがきくような税や社会保障制度の再設計。美しい水や空気をはぐくむ自然環境の復元と田園国家の形成。21世紀を生き抜き、世界に日本モデルを発信できるたくましく創造的な人材の育成など。 しかし、これら課題を実現するには、余りに財源は乏しい。政府税調は消費税増税と高齢者優遇税制の縮小を答申した。事の是非はともかく、国民に痛みを強いる前にまず政治、行政が身を切らねばならぬことは自明の理。政治家一人一人が党派を超えて、タブーに踏み込み、いかにこの国難を乗り越えるべきかを真剣に検討すべきだ。 一つは時代の要請と適合しない公共事業の大幅削減だが、これはもはや実行あるのみである。いま一つは、行財政改革の「聖域」、政治家、中央官僚を含めた公務員の人件費の見直しである。いずれも国と地方で約30数兆円の歳出・事業規模を有し、与野党ともにそこに踏み込みにくい政治的背景が存在する。 自ら公務員生活を経験し、公務につく人々の身分保障の制度的重要性を理解する筆者にしても、中小企業やサラリーマンが破産やリストラの危機に瀕しているこの時勢にあって、三八〇万人の公務員の人件費の総額が約三八兆円、すなわち一人当たり約一千万円に上る事実は極めて重く受け止めざるをえない。日本で最も競争力のある自動車産業を含む輸送機器製造業の一人当たり人件費六百数十万円を約四割も上回っている。 少子高齢化の進展に伴う将来的な国民負担率の上昇が不可避な中で、公的立場にいるものが進んで痛みを受け入れずして、国民に痛みを分かってくれとは説得不可能である。すでに筆者の地元の京都市では桝本頼兼市長のリーダーシップと労使間の話し合いのもと、最近二年間にわたり最大十五%の給与カットで七〇億円余の財源を捻出済だ。田中康夫長野県知事、片山善博鳥取県知事も同様、或いはさらに大胆な改革を推進中である。 人件費の削減で得られた財源は、先に述べた国家的課題の解決を念頭に「社会的需要」の充足に用いる。例えば小人数の高齢者がケアを受けながら共同生活を送るグループホームや職業能力開発補助金の上積み。森林の間伐や保護、食品安全や土壌・水質汚染などの監視を行う食品Gメン、環境Gメン制度の創設、学校での社会人講師の登用など、これまで不十分だった公的サービスを増強する。主体は当然民間。国民にとっては公的サービスの充実と新たな雇用の創出という二重の利益を追加負担なく実現できるのである。 政治家・官僚の人件費の節約を財源に、従来役所が提供していなかった広義の公共サービスを民間に担ってもらう「公的ワークシェア」。公共事業改革とともに、これからの「公」のあり方に一石を投じる重要課題だ。社会的に責任ある立場にある政治家や官僚は、自ら「聖域」に切り込む勇気をもつべきである。 |