闘論:官僚の「政治任用」 松井孝治氏/舛添要一氏
今回の衆院選で、霞が関の官僚がひそかに注目している争点がある。首相が各省庁の主要幹部を任命する「政治任用」(ポリティカル・アポインティー)制。民主党が発表した政権獲得後の「脱官僚」政治への移行プランに盛り込まれた。官僚たたきの人気取り政策か、政官の関係を変える抜本策か。導入の是非は。(題字は書家・貞政少登氏)
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◇国益の実現には必要 局長級以上は特別職--民主党参院議員・松井孝治氏
民主党が考える日本型ポリティカル・アポインティーは、米国のように政権交代とともに約3000人が代わるようなものではない。官邸で200人、各省庁は10人ずつでもいい。政治任用された人たちが、役人と真剣勝負をする。マニフェスト(政権公約)に従う人なら、役人でも民間人でもいい。
将来的には国家公務員法を改正して、各省庁の局長級以上は身分保障のない特別職にする。局長級は、いったん辞表を書き、退職金も受け取る。そこから先はオープンな官民競争だ。某局長が空けば、そこに一番優れた人を認めていく。
ただ、現行法では出来ない。今やろうと思っているのは、局長級を呼び、マニフェストに賛成してもらえない場合、人事異動を考える。不当と訴えられるかもしれないが、場合によっては法律論争すればいい。我々が政権を取る時は、民意はマニフェストを支持してくれたということだから、政と官の役割分担から、当然従っていただくべきものと思っている。
なぜ今、官僚の政治任用か。昔は時代がシンプルで、官僚自身も国益意識が高く、司々(つかさつかさ)が全力を尽くせば国の舵(かじ)取りに間違いはなかった。だが今は、どこがより大きな負担をし、どこに政策的資源を投入すべきか、メリハリをつけざるを得ない。政策判断が大胆、迅速に行われないと、国益を実現できない。
本来は政治が決断すべきだが、出来ていない。「政治主導」といいながら、アドバイザーを持って自ら考え、官僚をリードして決断できる政治家はほとんどいない。権力の中枢が空洞化している。そういう時代だから、小泉(純一郎首相)さんの判断だけが際立つ。
だが小泉さんには、政治的決断に中身を詰める政治的スタッフがいないのが問題だ。役人がやった瞬間、看板と中身が違うものになってしまう。道路公団民営化は最たるものだ。「小泉さんはこう考えているから、ここだけは譲ってはいけない」と言う人がいない。それが20~30人いれば、もっとまともな民営化ができた。郵政民営化も掛け声は勇ましいが、小泉さんの本来の意向と違う「化け物」ができる可能性がある。見かけは「政治主導」だが、中身は「官僚主導」だ。【構成・佐藤千矢子】
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◇政治家の質向上が先 転職への理解も不足--自民党参院議員・舛添要一氏
政治任用を突破口に、官僚制度に風穴を開けて政治の閉塞(へいそく)感を打破したいという民主党の主張は理解できる。しかし、政治任用を生かすには、まず社会全体が変わらないといけない。
政治任用されるような優れた人材は、すでに民間企業や大学などで高いポジションについている場合が多い。彼らは「今あえて官僚に転じる必要があるのか」と考えるのではないか。
終身雇用や年功序列は崩れつつあるが、日本ではまだ転職が多いことはマイナスの評価を受けかねない。まず米国のように、転職の回数が多いほど高く評価されるような社会の風潮を作らないと、転職に二の足を踏むのではないか。
政治任用しても官僚組織が動かなければ、任命された人が苦労する。官僚は高い専門性に加え、かなりの政治力も要求される。内実を知り尽くしていなければ組織は動かせない。厚生労働省を取材してきた新聞記者が急に厚労省の役人になっても、結局「お客さん」扱いで終わってしまうのではないか。
政治任用より先に考えるべきことは、政治家自身の質を高めることだ。政治任用が議論になるのは、政治家ではなく官僚が政治を動かしている現実があるからだ。国会答弁もできない閣僚が、部下の官僚に答弁書を書かせるようなことを、まず改めるべきだ。
政治家に官僚を使いこなす能力があれば、政治任用をしなくても、政治家主導の政治は実現できる。議員立法はもちろんだが、自分で法案を書かなくても、官僚に方向性を示して法案を書かせれば良い。「あなたは自分の役所のことしか分かっていない。社会全体を見れば、あなたの言い分はおかしい」と官僚に言える政治家は、実は官僚にも尊敬されている。
政策を変えるために人事をいじる必要はない。政権交代で内閣の方向性が変われば、官僚はそれに従うべきだ。民主党政権が誕生し、12月に自衛隊をイラクから撤退させると決めたら、外務官僚はその方向で仕事をすべきだ。
政策変更の責任は政治家が負う。「自衛隊を撤退させても日米関係は維持できる」と、政治家がきちんと説明できることが大事なのであって、先に人事を変えるという話ではない。【構成・尾中香尚里】
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■人物略歴
◇まつい・こうじ
東大教養学部卒。旧通産省を経て01年参院選で初当選。民主党政調副会長。45歳。
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◇ますぞえ・よういち
東大法学部卒。参院当選1回。自民党公務員制度改革委員会幹事を務めた。56歳。