【2008年5月31日 毎日新聞朝刊/web掲載】





     近聞遠見:霞が関改革の扉が開いた=岩見隆夫




 渡辺喜美行革担当相の真っ赤な目から、大粒の涙がほおを伝って落ちた。28日、国家公務員制度改革基本法案の修正案が衆院内閣委員会で可決された直後、記者団のインタビューに応じた時である。

 翌朝、涙の写真は新聞に載らなかったが、テレビでは繰り返し放映された。テレビは涙が好きだ。渡辺は、

 「ハードルが山のようにあったが、国民のみなさんの強い支援をいただいた」

 と声を詰まらせた。<国民>の2文字に実感がこもっていた。

 なぜなら、渡辺はせっせとテレビに顔を出し、法案の成立が危ぶまれるなか、霞が関改革を熱っぽく訴えた。それが功を奏し、国民世論が成立を後押ししたのは間違いないからだ。

 与党との法案修正をまとめた民主党幹部も、

 「渡辺さんがテレビを通じてエンジンをふかしたのは認める。あの話芸とパフォーマンスは父親譲りだ。しかし、それで内部に波風が立った面もある」

 と言う。渡辺のテレビ作戦は功罪両面があったようだが、とにかく小泉純一郎元首相に次ぐテレビ政治家の登場である。

 ところで、渡辺が言う山のようなハードルをどうして乗り越えることができたのか。得点を狙う福田官邸、霞が関改革に不熱心とみられたくない与党と民主党、この3者の思惑が重なった、というのが一般的な見方だが、それだけとも思えない。

 今回の改革の主眼は、幹部人事の内閣一元化にあった。与野党の実務者協議に参加した民主党行革調査会の松井孝治事務局長は、3月末のメルマガに、

 <いまの官僚は社会人生活のすべてを、縦割り組織のなかで採用され、評価され、処遇されている結果、しばしば国益全体よりも省益、局益追求に重きを置く傾向があるのは残念だ。

 幹部公務員制度を導入し、局長一歩手前からは全政府的な人材登用を図るべきこと、その際、役所の内外から優秀な人材を自由に任用すること、などを実現したい>

 と記しているが、この民主党の考え方はほぼ全面的に修正案で採用された。

 官房長官のもとに内閣人事局を設置し幹部候補名簿を作成、首相らと協議のうえ各閣僚が任命するという新システム。有効に運用されれば、明治以来の縦割り人事制度を打破する画期的なことだ。

 一時、法案成立が絶望的と報じられたのは、霞が関の抵抗が予想されたからだが、それほどでもなかった。

 <過去官僚>などと言われ、改革に慎重とみられた伊吹文明自民党幹事長、町村信孝官房長官ら官僚OBも、むしろ推進側に回り、民主党案の約8割をのんだ。福田康夫首相の強い指示と、時代の流れに抗し難し、という分別もあったのだろう。

 ただ、民主党案のもう一つの目玉だった天下り禁止は見送られた。民主党がこだわれば修正協議は実っていない。

 「天下りは切り離す」

 と同党行革調査会の松本剛明会長らが、批判を覚悟で決断したのが決定的だったという。修正案にはキャリア制廃止と民主党が求めた<65歳までの定年延長の検討>も盛り込まれているので、実現すれば、天下りは相当減少するとみていい。

 これで霞が関改革の扉は開いた。福田政治の最初の得点であり、ねじれ国会ならではの収穫だ。与党はよく譲り、民主党は大人の対応をして実をとった。あとはいかに魂を吹き込むか。

 そして、渡辺は父・ミッチーが果たせなかった夢を追うきっかけをつかんだ。(敬称略)=毎週土曜日掲載




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 以上、左記サイトより引用。

岩見 隆夫(いわみ・たかお)

 毎日新聞東京本社編集局顧問(政治担当)1935年旧満州大連に生まれる。58年京都大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。論説委員、サンデー毎日編集長、編集局次長を歴任。
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