第167号  2008.2.17


  <官僚の「政治化」と政官接触制限>

  皆さん、こんにちは。
  松井孝治です。

  本日は、久しぶりに公務員制度改革について述べたいと思います。


 ☆ 公務員制度改革懇談会の提言(政官接触制限)

  最近、政府の公務員制度改革懇談会の 最終報告において、
  国家公務員の政治家への 接触制限案が 答申されております。

  具体的には、

  「国会議員との接触は、
   大臣、副大臣、大臣政務官(これらはいずれも政治家)
   及び 各省庁に一定数置かれる「政務専門官」が行い、
   それ以外の公務員については、
   行政の中立性の観点から、大臣の命令による場合に限る 
   などの 厳格な接触ルール を確立する」

  と記述されています。

  当初は、
  大臣、副大臣、政務官、政務専門官以外は
  国会議員には 接触禁止とするという内容でしたが、
  自民党内で異論が続出し、
  最終報告では上記のようにトーンダウンし
  政官の接触制限というか、集中管理を提言しています。

  私は、
  元来、政治家と官僚は大いに議論をし、
  よりよい政策を練り上げていくのが、
  その職務であると思っていますので、
  政と官の接触禁止などというのは、
  正直言って 余り好みではありません。

  ただ 政治家と官僚の現状を見ると、
  あながち この議論を無視できない 状況があります。


 ☆ 政治家ほかとの「調整」に追われる官僚たち

  霞が関の各省庁では、今に始まったわけではありませんが、
  局長から、課長、課長補佐にいたるまでが、
  国会議員への説明や根回しなどの調整、
  あるいは 
  関係省庁、関係業界や団体との調整に追われて、
  本質的な政策の企画立案に割くべき時間が
  どんどん少なくなっています。

  各省の中でも
  「仕事師」といわれるような官房長や局長達が、
  衆参両院の本会議のたびに議場の横で、
  各省になじみの深い議員を 待ち伏せして根回しをしたり、
  議員会館行脚をしている姿を見るたびに、
  今の政治家が、
  本来、政治が調整しなければならない「調整事務」を、
  いかに各省の官僚に 丸投げしているかを痛感します。

  また、
  政策内容の企画立案の先頭に立つのは、
  各省庁の課長補佐クラスですが、
  彼らが真摯に企画立案した政策案が、
  政治・関係団体との調整や 各省庁協議の場で、
  木っ端微塵に破壊されてしまうことも 珍しくはありません。

  私が政治を志す直接のきっかけとなったのも、
  橋本行革の原案が、各省の抵抗で、
  完膚なきまでに 骨抜きにされたことにあります。


 ☆ 官僚の出世の条件は?

  そうした状況の中で、官僚として出世する条件は、
  与野党との調整、業界との調整、
  関係団体との調整、各省庁協議などで、
  利害の異なる関係者の 
  最大公約数となる合意の着地点をいかに見出し、
  そこに関係者を円滑に誘導できるかといった、

  いわば「政治的調整」の力量に 
  余りにも重きが置かれてしまい、

  本来、政策スタッフとして
  官僚が行うべき、政策としての有効性の検証や、
  真に追求すべき国民の利益の視点が 
  希薄化しているのです。

  官僚の役割は、
  日本の経済社会の諸課題に対して、
  最も有効かつ適切な政策メニューの選択肢を立案し、
  メリット・デメリット、政策費用と 国民の便益を比較した上で、
  政治(すなわち国民)に最適な決断を求めることにあります。

  この当然のプロセスが空洞化し、
  政治家をはじめとした 声の大きなグループの
  利害調整の結果の着地点を求める というゲームの結果、
  現実の均衡点で 政策が採用されているに過ぎないのが
  今の永田町・霞が関の実態なのです。

  そして その着地点への誘導が上手な官僚こそが、
  有能な官僚である という評価を受けています。


 ☆ 官僚の「政治化」

  私は、
  官僚が こうした政治的調整手腕を
  いささかでも持つべきではない とまでは申しません。

  しかし、余りにも多くの官僚が、
  こうした政治的調整に腐心し、
  本来官僚がきちんと行わなければならない、
  上記の政策分析などが 全く疎かになっているのは、
  政策空間の空洞化としか思えません。

  こうした状況が、
  私が申し上げる、官僚の「政治化」であり、

  昨年あれほど騒がれた 守屋前防衛次官の問題は、
  決して守屋さんという大物次官の個人的な問題だけでも、
  防衛省固有の問題でもなく、

  官僚の「政治化」の弊害の象徴であり、

  更に言えば、
  それは官僚の問題である以上に、
  本来 政治が行う重要な調整事務を
  官僚に丸投げしてきた
  政治家の怠慢の結果 
  としかいいようがありません。

  こうした状況の下で、
  心ある霞が関官僚が、政策立案水準の著しい劣化を嘆きつつ、
  櫛の歯が欠けるように 1人また1人と霞が関を後にしています。

  このことを、官僚組織のみならず、
  自らの政策スタッフである官僚を
  こうした役割にしか使いこなしえていない 
  政治家自身が猛省した上で、
  政と官の関係や 広義の公務員制度改革を行わない限り、
  結局のところ 日本の公共政策が貧困の一途をたどり、
  そのツケは 確実に国民に まわされるのでなはいでしょうか。


 ☆ 政官接触制限の限界と効用

  政官の接触制限に話を戻しましょう。

  たしかに、現状の政官関係のまま、
  公務員が政治家に接触することだけを禁止的に制限することは、
  野党への情報開示の問題を含め課題が多いし、
  このことだけで 政と官のあるべき役割分担を是正するには
  少々無理があることは 事実です。

  ちなみに、
  現状で官僚の政治家への接触を実質的に禁止すれば、
  その役割は誰かが代替せざるを得ず、
  米国型のロビイストの隆盛を 招くことになるでしょう。

  退職国家公務員の雇用吸収にはなるかもしれませんが、
  現在の政と官の接触よりも、
  不透明かつビジネス化することが予想されます。


  しかし、政官の過度に濃密な接触にも 問題はあるのです。
 
  多くの方々の記憶は 風化しかけていますが、
  かつて鈴木宗男議員をとりまく事件は 何だったのでしょうか。
  大臣の全く感知しないところで、
  部下の官僚が、有力な族議員のところに 
  根回しや頼みごとに行く。

  族議員は族議員で、
  大臣や副大臣の知らないところで
  官僚に不当な圧力をかけたり、露骨な利益誘導を行う。

  結局、
  各省庁の官僚と族議員は 
  持ちつ持たれつという密接な利害関係を
  共有するにいたっているのです。


  私が橋本行革で経験したのは、
  こうした政官関係の中で、自らの所属する組織が、
  たとえば省庁再編の対象となったり、

  傘下の外局や特殊法人などの組織が
  廃止・民営化の対象となった場合、
  仮に 
  大臣自身が もともとその行革案に実質的には賛成していても
  各省の官僚は、職務として、
  日頃「お世話」している政治家(族議員)に
  「陳情」や「根回し」を行い、
  彼ら族議員が 官僚側について改革反対の大合唱をとなえ、

  結局、
  大臣までもが、自らの所属する内閣の一員の立場よりも、
  自らが(形式上)トップに立つ行政機関の長として、
  各省の官僚の立場の代弁者となってしまう
  そんな状況でした。

  最近でも
  類似の状況が頻発していることは、賢明な読者の皆さんは
  すでに看破しておられるのではないでしょうか。


  こうした状況の中で、政官の接触について、
  大臣の責任下で 一定の規律を持たせることは、
  その運用にもよりますけれども、
  政治家の官界への不透明な圧力や
  族議員と 各省庁の関係の適正化には
  一定の有効性を持つことは 事実です。

  そして最初に申し上げた、
  官僚に 余りにも政治的調整を丸投げして、
  結果として調整にばかり追われ、
  悲鳴を上げている官僚の事務の見直しに
  資する可能性はあります。


 ☆ より本質的なこと

  ただ
  政治家と官僚の役割分担として、
  両者の接触制限以上に 大切な前提条件がいくつかあります。

  第一に、
  官僚任せの各省調整や党内調整などに 政治家が汗をかくこと、

  第二に、
  政策の大枠は 国政選挙の際にマニフェストで有権者に示し、
  官僚に、業界との調整、各省間での調整、
  政治家(族議員)との調整など 関係者に
  白地での調整をさせるような労力をかけないこと、

  第三に、
  官僚組織は、
  政治家(野党議員)、
  国民への客観的情報の公開や情報提供については、
  組織的利害で判断せず、積極的に行うこと、

  第四に、
  ここが最も本質的なことですが、
  基本的には 
  与党の各分野の政策責任者を 内閣内部に配置すること、

  具体的には 
  内閣官房や各省の中に 政治家を
  大臣、副大臣、政務官、補佐官として配置し、
  彼らが、閣内で政治的調整を行うこと、

  事前に 党の各部会で審査を行ったものしか
  閣議決定をさせないといった、日本独自の与党事前審査制、
  政府・与党二元主義に終止符を打つこと

  が必要です。


 ☆ その上で、政官接触ルールは必要

  以上の前提条件を満たした上で、
  これらと並行して、政と官の接触ルールは必要だと思います。
 
  第一に、接触内容を透明化することが何よりも重要でしょう。

  政治家による不当な圧力は 情報公開により、
  有権者の審判に晒していくわけです。

  同時に、
  大臣などの意図に反して 
  官僚が 一部の族議員などに勝手に根回しするようなこと
  があってはならないことは 当然です。

  内部統制の一環として、
  どのような場合に 
  官僚が 政治家に接触できるかを明示的に定めておき、
  結果は きちんと省内で大臣、副大臣などが
  管理できるようにしなければなりません。


  逆にまた、
  国会議員側にも、一定のルールが必要でしょう。

  与党議員の不当な圧力は 
  上記の透明化などで 抑止するにしても、

  特に野党議員については、
  官僚いじめのような資料要求を短期間で行うことや、
  休日・深夜の質問通告などは 自粛すべきです。

  国会日程を ある程度余裕を持って確定し、
  少なくとも質問内容は 
  前日の午前中には 通告するようなルールが必要ですし、
  余りにも細かな質問主意書を 乱発することなども、
  質問権の制約にならない範囲で 自粛すべきだと考えます。


  官僚は、
  消耗させるべき「敵軍の兵士」ではなく、
  政治家の 政策スタッフです。

  それをいたずらに疲弊させることは
  結局 国全体の資源を浪費することにつながり、
  自分達が与党になった時に 
  政策立案能力が劣化している という事態を招きます。

  官僚側には、
  上述したとおり情報隠蔽を行わず、
  与野党を通じで 中立・公正な情報提供が求められることも
  当然の前提です。
  (ちなみに情報の公開や提供から、
   さらに一歩進んだ政策立案では、
   官僚は、与党によって構成される内閣を補佐し、
   野党を補佐しないのは当然です)


  本日は、政官の接触規定について意見を述べましたが、
  政府の公務員制度改革の懇談会は
  他にも興味深い論点をいくつか提起しています。

  例えば、
  官僚が、各省庁のゼッケンをはずすべきだ
  という委員の意見には、全く同感です。

  以前から私が申し上げてきた、
  省益、局益官僚ではなく、国益官僚が必要だということ
  と同じ意味であるからです。

  ただ、私には、懇談会報告をさらに一歩踏み込んだ、
  より抜本的な方策が 必要だと思っています。


  天下りについても、
  従来私を含め、民主党が申し上げてきた
  天下りの禁止措置だけでは 
  やはり不十分である と考えています。

  政策スタッフであり、貴重な政策資源でもある、官僚を、
  どのように政府全体として活用していくのか
  という視点を補充することが必要です。


  政官ともに
  規律は必要ですが、官僚バッシングだけでは、
  結局、政府の政策立案能力はいつまでたっても高まらない、
  官僚のモラールも向上しないのではないか、
  そんな個人的感想を持つ出来事が 多数起こっています。


  これらのことを書き出しますと、さらに長くなりますので、
  いずれ、わが党の行政改革調査会(私が事務局長です)
  において、成案を取りまとめ、
  このメルマガでも きちんとご説明することだけを
  今日のところは お約束させていただきます。


  追伸
  昨年末に発行しましたメルマガで申し上げました
  銃規制についての私見について、多くの読者の方々から
  積極的に規制を行うべきという意見、
  規制には慎重な検討が必要との意見など
  さまざまなご意見をいただきました。

  この場を借りて感謝・御礼申し上げます。
  現在、私が担当する民主党内閣部門のもとに
  「銃規制ワーキングチーム」
  (座長:山根隆治参議院議員、事務局長藤本祐司参議院議員)
  を設け、いただいたご意見を参考にさせていただきつつ
  関係者の方々、専門家からヒアリングを
  行わせていただいております。(すでに数回行っています)

  政府・警察庁においても、
  今年に入って大掛かりな一斉銃砲検査を行い、
  問題点の把握と改善につとめているようですが、
  ワーキングチームでの検討を踏まえつつ、
  民主党としても政策提言をまとめていくつもりです。


 
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  ●京都から、この国のかたちを変える。●
   第167号  2008.2.17 発行  (配信数:2914部)
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