第174号  2008.6.27


 ◆◆ 「サマータイムと国民投票」 ◆◆


  皆さん、こんにちは。
  松井孝治です。

  洞爺湖サミットを目前に控え、
  地球環境問題を含めた 地球規模問題への取り組みが、
  今、問われています。

  私は、地球環境問題にも増して、
  食糧・エネルギーの問題への取り組み が急務であるし、
  単に ナイーブに
  「環境問題が第一!」と声高に叫ぶだけでなく
  国として、より戦略的に取り組むことが 
  必要と考えていますが、

  このあたりについては、
  いずれまた 機会をみて じっくりと取り上げたいと思います。


  本日は、その関連で、少し趣を変えて、
  「サマータイム」について取り上げます。

  前号に続いて、元官僚で、ヨーロッパ在住の友人からの
  メールを紹介し、コメントを加えます。


  ☆☆☆ 引用開始 ☆☆☆

   サマータイムについて

   6月8日付けの読売新聞に
   「総理が、サマータイムを2010年にも導入することを
    目指す考えを表明」とありました。
   小生はサマータイム導入には反対です。

   ご存知のとおり、
   ヨーロッパ 及び 米国にはサマータイムがあります。

   しかし、これには以下のとおり
   極めて切実 かつ 合理的な理由 があるのです。

   冬至及び夏至付近の日にちにおける
   当地の日の出・日没の時間は以下のとおりです。(注1)

   12月31日 日の出 8時13分 日没 16時45分
   06月16日 日の出 5時28分 日没 21時25分 

  (注1)厳密には、冬至・夏至と日の出、日没が
      もっとも遅い・早い日であるわけではありません。
      そもそも例示の日にちには冬至でも夏至でもありません。
      当地と東京で日も違います。
      手元にある統計を使っただけです。
      しかし、いずれにせよ数分程度の差であり、
      ここでの議論用としては十分正確です。


   6月はサマータイムなので、仮に欧州にサマータイムがないと、
   6月の日の出と日没は、4時28分と20時25分です。

   他方、東京では以下のとおりです。

   12月30日 日の出 6時50分 日没 16時37分
   06月10日 日の出 4時24分 日没 18時56分 

   緯度が高い当地では(注2)、
   冬と夏の日照時間が大きく違います。
   上記の日で言えば
   12月は約8時間半、6月は約16時間です(差7時間半)。

   他方、東京の日照時間は
   上記の日で言えば
   12月は約9時間半、6月は約14時間半(差5時間)です。

   (注2)御存知のとおり、一般に緯度が高いほど
       夏冬の日照時間の差が広がります。
       一番極端なのは北極です。
       冬は24時間日が出ず、夏は24時間日が出ています。


   当地のように冬の日照時間が短いところでは、
   夏の日照時間は貴重なので、人々が働く時間に合わせて
   「朝9時」とか「夜5時」とかを定義する
   (つまり、その時間が明るい時間帯になるように
    時間の定義をする)
   必要があるのです

   冬の日照時間が短い分、
   春から夏にかけて日照時間が十分にあるときは、
   それを人間の活動時間に合わせて
   十分に堪能しようという発想なのです。

   夏時間のことをdaylight saving time
   (「日照時間の有効活用」という意味)と呼ぶ いわれです。

   欧米の主要都市の緯度は 軒並み東京よりもずっと北です。
   (パリやロンドンはもちろん、それより南のジュネーブも
    東京より北。ニユーヨークも東京よりずっと北です。)

   つまり、サマータイムは 国民の生活の利便のためにあるのです。

   日本でサマータイムがもてはやされるのは
   省エネ との関係だと理解しています。
   政府部内にも色々と試算があるのだろうとは思いますが、
   小生は、これは疑わしいと思います。

   考えても見てください。

   オフィスはどこでも(多分国会も)昼日なかだって
   室内はライトを点けています。
   たとえば「午後6時(業務終了時間)」をどう定義しようとも
   (つまりサマータイムを導入しようがしまいが)
   こと照明用電力消費に関しては ほぼ同じでしょう。

   また、1時間程度時間をずらしたからといって
   冷房や暖房用の電力消費が 大きく変わるとも思えません。

   他方、サマータイム導入による社会の混乱は
   大変なものだと思います。
   貴兄も米国に居たのでわかると思いますが、
   夏時間あるいは冬時間に入る前日は、
   新聞やテレビやで大々的に注意喚起します。
   それでも、
   「あっ、そうだった!」と間違える人は跡を絶ちません。

   欧米のように
   「まあ、いいや」、「こういう勘違いは仕方ない」
   と割り切れる国民ならまだしも、
   「混乱で損害を出した」「責任問題だ」「政府の対策は何か」
   などと すぐ責任追及をしたがる日本でやると
   滅茶苦茶だと思います。

   考えても見てください、
   例えば、夏時間導入前日に国内のA駅を定時に出発して、
   徹夜で走って夏時間導入当日にB駅に到着する列車の
   その日の「定時」到着時刻はどうなると思いますか?

   当地では、「その日に限りX時」というものです。

   こんなややこしい(あるいはいい加減)なことに
   律儀な日本国民の理解が得られるとは思いません。
   必ずや非難ごうごうになると思います。

  ☆☆☆ 引用終了 ☆☆☆


  この友人が言っていることは正しいことです。
  ただし、今回の私の結論は、彼のものとは少々異なります。

  先に結論を申し上げれば、
  私は、本件こそ、
  国民投票 に付すべき課題であると考えています。

  私は、3、4年前に、
  超党派のサマータイム推進議連の事務局次長をおおせつかり、
  この問題について、多くの有識者からヒアリングを
  行ったことがあります。


  最初は、過去に米国(シカゴ近郊)に2年弱住んでいたときの経験で、
  夏場に、夜9時前まで日があることが、
  人間のライフスタイルを 如何に変えるかを実感していたので、

  今 思えば比較的安易に 推進の立場を取っていたのですが、
  勉強すればするほど、この問題は、
  あらゆる国民の生活や社会活動に 影響を及ぼすものであり、
  そう簡単に導入を決められない という気持ちが高まりました。

  サマータイムの導入には、素晴らしいメリットとともに、
  様々なコストやデメリットが存在することは
  明らかな事実です。

  まず、サマータイムに関する問題点、ないし、
  推進根拠についての疑問点について 私なりにまとめてみます。


 ◆ 省エネ、温暖化対策としてのサマータイムは疑問 ◆

  省エネとか 温暖化対策としての サマータイムというのは、
  私は 少々眉唾もの だと思っています。

  始業・終業時間を1時間前倒しすることによって、
  多少の省エネ効果があることは 事実かもしれませんが、
  昼間余暇時間の増大による エネルギー消費増も
  馬鹿にならないと思います。

  朝の涼しいうちに 勤務を始めたとしても、
  オフィス全体の稼働時間が短くなる保証はありませんし
  (むしろ残業が長時間化するという指摘もある)

  夕方、しかし、まだ日の高い時間に、
  仮に多くの勤め人がオフィスを離れて街に出たとき、
  或いは家庭に帰ったときに、彼らがオフィスの外で、
  余分に消費する各種エネルギーを 計算に入れれば、
  むしろ エネルギー消費増になることの リスクさえあります。

  民間団体が行っている試算も、その前提条件の置き方などで、
  首を傾げざるを得ない部分が多々あります。

  そもそも 現在のわが国の温暖化対策の位置づけは、
  根拠や戦略に乏しく、
  欧米や中国・インドなどの途上国と比較しても、
  ともかくナイーブであり、

  温暖化対策という名前がつけばありとあらゆる対策をやる、
  その一環としてサマータイムを導入するという説明は、

  正直に申し上げれば、あまりにも根拠が弱く、
  この点や 経済波及効果に力点を置いた、
  サマータイム推進論は、
  かえって 胡散臭い印象を与えかねないと思います。

 ◆ 現代人は時計を身の回りにいくつ持っているのか? ◆

  サマータイム推進に関する二つ目の問題は、
  現代人が使用する時計の多さです。

  腕時計や自宅・オフィスの壁掛け時計、目覚まし時計のことを
  申し上げているわけではありません。

  社会生活のあらゆる部分にコンピュータ、
  ないしコンピュータ制御が入り込んできていること
  を申し上げています。

  すなわち、DVDデッキやテレビ、携帯電話、パソコン、自動車、
  エアコン、さらには信号機や各種交通システム、
  金融サービスや医療システム、製造業の工程管理にいたるまで、
  コンピュータ制御されている 多くのシステムには
  時計が組み込まれており、年に2回、
  それらを狂いなく調整することが必要になります。

  欧米では、IT化の進展の前から、
  年に2回、時間の前倒し、後ろ倒しを行っていますから、
  国民も企業も政府も、その作業に慣れていますし、
  その前提で社会システムの開発が行われていますが、

  日本でこれを行うと、さすがに最初の数年間は 
  混乱が生じることは間違いないでしょう。

  こういう話をすると、
  電波時計で対応可能とか、ビデオタイマーには
  時報に合わせた時刻調整機能がついているとか、
  したり顔での再反論があるのですが、
  多くの問題は すでに欧米でクリアしているのですから
  技術的に解決可能なことは わかっています。

  ただ 交通とか金融のような大規模なシステムの導入に際しては、
  相当規模のITシステムの改変が必要ですし、
  導入時の、例えば交通システムの混乱と
  重大事故のリスクだけは 軽視すべきでない問題です。

  こうした対応については、
  むしろITソフト事業者から見れば
  追加的ビジネスチャンスの創出、
  各種電機メーカーから見れば
  新製品の販売促進を意味するのかもしれません。

  サマータイム導入の経済波及効果には、
  こうした分野での 新規投資や 買い替え促進が
  組み込まれています。

  こうした点は、
  地球温暖化対策における省エネ型製品への転換と同様、
  まさにコインの裏表であり、
  積極的に内需拡大要因とも受け取れるし、
  国民経済が負うべき追加的コストともみることもできます。


 ◆ もっとも本質的な問題は人間の自然とのかかわり ◆

  この他にも、夏場、宵の口の時間が明るくなると、
  残業時間が増えるとか、南北に長い日本列島の場合、
  サマータイムの導入の及ぼす影響は
  北海道と沖縄では驚くほど異なり、
  沖縄では 夏時間のはじめや終わりの時期には
  朝の通学時間帯が暗くなってしまい危険が生じるとか、
  さまざまな問題点が指摘されています。

  そうすると、かならずそれに呼応して、
  昼間が長くなるから交通事故が減るとか、
  ひったくりなど犯罪が減るとか、
  他の主要先進国は導入しており国際協調になるとか
  (実際は 国ごとに夏時間・冬時間の切り替え日は 
   まちまちなので胡散臭い議論)
  いろいろな議論が出てほとんど水掛け論になるので、
  これ以上は紹介しません。

  先ほどコンピュータの問題に言及しましたが、
  それよりも大切な問題は、人間の問題だと思っています。
  年に二回の 時間調整に対応できない児童生徒の問題
  を挙げる方もおいでですし、
  その点は大切な問題のひとつですが、

  私がもっとも本質的だと思うのは、日本人の自然観に関るものです。

  高緯度地域に主要都市が集まる欧米で 
  サマータイムが普及したのは、社会ルールとして、
  人間の活動時間帯を、年に二度、
  前倒し、後ろ倒しすることにより、
  ある意味で、自然環境条件を、
  人間が上手に活用しようではないか という発想だと思います。

  サマータイムを導入したからといって、
  別に自然破壊が行われるわけではありませんから、
  人間の知恵と言うことは出来るわけですが、
  自然とのかかわりにおいて 人為性が高まることは事実です。

  一年を通じて、
  夜明けの時間、日暮れの時間が徐々に早くなったり、
  遅くなったりして、季節のうつろいを日々感ずる文化には、
  少なからぬ影響が加わることになる、
  その点は、私の場合、米国生活体験で 実感しています。

  自分の経験で言うと、
  アメリカ(シカゴ近辺)では、春秋が短く、
  冬の季節から、ある日突然夏がやってくる、
  あるいは、ちょっと前までは夏という感じだったのに
  急に冬がやってくるという、感じがいたします。

  それを夏時間、冬時間の
  切り替えが助長しているような気がするのです。

  気候風土の異なる日本で、サマータイムの導入だけで、
  季節感が希薄化するとか、
  文化が変るとまでは申し上げませんが、
  考慮に入れておくべき要素の一つでしょう。


 ◆ しかし、素晴らしいメリットもある ◆

  以上、問題点を縷々申し上げましたので、読者の皆さんは
  「松井はサマータイム推進の旗を降ろしたのだな」
  と思われたかもしれません。

  確かに「旗」をどこまでふるかの姿勢は、
  より慎重なものへと変わりましたが、
  私は サマータイムの導入に 反対ではありません。

  自分の経験から申し上げて、夏場、
  特に子供達の夏休みの時期に、多くのサラリーマン世帯において、
  勤務時間後、家族とともに、
  昼光のもとで過ごせる時間が増えることは、
  人間の心理や 生活様式に計り知れない好影響
  を与えると思うからです。

  子どもや、子どもを持つサラリーマンだけでなく、
  すべての日本人が一度これまでのライフスタイルを見直し、
  社会と自分、会社と自分、家族と自分、友人と自分、
  それらの関係を見つめなおす、
  大きな契機になるのではないかと思うからです。

  しかし、この制度には
  上に述べたような様々な問題点が存在します。
  そうした点を最小に抑制していくためには、
  さまざまな 社会的コスト を支払ってでも
  十分な準備をしなければなりません。

  特に 交通システムなどの人間の安全に関る
  社会システムの混乱回避には 十二分な対応が必要です。

  自然や季節との関りについては、今の、日本人、
  特に私を含めた都市住民は 季節感と無縁な生活をしており、
  それをどのような工夫で克服できるのか、
  この壮大な「社会実験」とも言える制度の導入を契機に、
  例えば 現在の食文化の見直しとか、都市と農村のかかわりとか、
  日本人が 自然や季節の変化の実感を取り戻すために 
  何が必要か という議論が必要でしょう。


 ◆ サマータイム制度導入の可否は、国民投票で ◆

  私は、この問題は、

  ○ 総選挙で、マニフェストで導入推進・反対を
    政党間論争するような課題というよりは、
    個人の価値観・社会観により大きく左右される問題である、

  ○ 一方、お年寄りから子どもたちにいたるまで、
    全ての国民生活に、否応なく大きな影響を与え、
    一人ひとりが、時計の針を年に2回調整することから始まって、
    社会との関り全般について、
    自ら対応・適応しなければいけない問題である、

  ことから、

  サマータイムの導入こそ、
  国民投票(できたら15歳以上に投票権を与えたいくらい)
  を実施し、その点を尊重して、制度の導入の可否を
  決すべき問題だと思います。

  そのように考えれば、この問題をきちんと議論し、
  各種の社会的対応を検討することは、
  日本の民主主義を成熟させるよい機会にもなると思います。

  決して政治家として責任を放棄するわけではなく、

  国民全体で、

  ○ 温室効果ガス削減効果や経済効果・内需振興効果の試算の
    根拠がどの程度まともなものなのか検証する、

  ○ 社会的に弱い立場の方々にとって、
    制度の導入はどの点がメリットで、どの点が負担なのか、
    といった議論を共有する

  ための格好の機会になると考えるからです。

  ちなみに、
  私の一票は、・・・・、現時点では「推進」に投じます。



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